
近年、欧米を中心に装置の機能安全に対しては法律で厳格化されており、それにしたがってサーボドライブシステムにも機能安全への対応が求められていますね。今回は、機能安全の概念や規格などの基礎を解説し、安川電機のACサーボドライブΣ-X(シグマ・テン)シリーズの機能安全対応製品をご紹介します。
機能安全の基本概念、本質安全との違いは?
まずは「安全」の定義を説明しましょう。「安全」とは、「許容できないリスクがない、または残存リスクが許容リスク以下である状態」であることです。そして、「リスク」とは、『危害の発生率』とその『危害の重度(ひどさ)』 の組み合わせたものです。
安全を確保するための考え方には、「本質安全」と「機能安全」があります。「本質安全」とは、危険を及ぼす原因そのものを低減または除去する考え方で、例えば線路と道路を立体交差にして電車と車の接触事故の可能性をなくすことが挙げられます。
これに対し、「機能安全」は、監視装置や防護装置などの安全制御機能によりリスクを許容できる範囲まで低減させる考え方です。例えば、踏切に警報機や遮断機を含む信号システムを設置し、電車と車の接触事故のリスクを低減することが挙げられます。
安全機能と機能安全製品
「安全機能」とは、リスクを低減するために組み込まれる機能のことです。例えば、踏切の警報機や遮断機を含む信号システムが安全機能に該当します。
そして、「機能安全製品」とは、この安全機能を組み込んだ製品を指します。踏切を製品とした場合、警報機や遮断機を含む信号システム(=安全機能)が設置された踏切が機能安全製品といえます。
機能安全製品を使用することで、その装置やシステムに存在するリスクを低減することができます。今回ご紹介する製品は、この機能安全製品にあたります。
機能安全の度合いを示す「SIL」と「PL」とは?
リスクの低減レベルは、IEC規格のSIL(Safety Integrity Level)とISO規格のPL(Performance Level)で、具体的に定義されています。
SIL(シル)=安全度水準(Safety Integrity Level)
IEC規格のSILは、システム安全性能を4つのレベルで示すものです。産業機器においてはSIL3が最高の安全度水準です。
PL(ピーエル)=性能レベル(Performance Level)
ISO規格のPLは、制御システム安全関連部の5段階の能力区分を示します。
また、PLの後ろにカッコ書きで記載される「(CAT3)」などの文字列は、安全構造のカテゴリーを示すものです。「CAT3」は単一故障で安全機能を損なわない構造のことで、例えばエンコーダデータの2重化がこれに当たります。
SILとPLを、リスクの低減レベルで区分される「危険側故障発生率 PFH」の基準値で並べ対比すると、SIL3とPLeは同等のリスク低減レベルであることが分かります。これは故障率が1時間あたり10-7という、非常に低い故障発生率を示しています。

- SIL3、PLe(CAT3)は、リスク低減の度合いが非常に高いレベルだといえますね。
SIL3、PLe(CAT3)を実現する、ASM-Xと機能安全モータ
安川電機のACサーボドライブΣ-X(シグマ・テン)シリーズの機能安全対応製品は、このSIL3、PLe(CAT3)の安全関連システムを実現する製品です。
アドバンストセーフティモジュール(ASM-X)を∑-XSサーボパックに取り付け、それを機能安全サーボモータと組み合わせることで、安全システムの構築を実現します。欧州連合(EU)内で機械類の必須安全要求事項を定めている法律であるCEマーキング機械指令に対応しています。
アドバンストセーフティモジュール(ASM-X)の特長
ASM-Xは、Σ-Xシリーズサーボパックのセーフティオプションモジュールで、モータの位置、速度、加速度を監視する安全機能を搭載しています。これにより、装置やシステムに存在するリスクを低減することができます。また、お客さまが装置側で安全機能を構築する負担も軽減します。その主な特長を3つご紹介します。
① 安全フィールドバス対応によりシステム省配線化
安全フィールドバスで安全関連システムを構築することで、システム全体の省配線化に貢献します。FSoE(Safety over EtherCAT)にも対応しています。
② 機能安全モータと組み合わせ、1モータで最大SIL3、PLe(CAT3)を実現可能
位置データを2重化したエンコーダを搭載した機能安全モータと組み合わせることで、最大SIL3,PLe(CAT3)の安全関連システムを構築できます。
③ EN61800-5-2適合の11種類の安全機能に対応
「可変速電動パワー・ドライブ・システム」の機能安全要件に関わる規格 EN 61800-5-2に適合した11種類の安全機能に対応し、そのうち同時に最大10種類を実行可能です。サーボパック搭載のHWBB(STO)機能の同時使用にも対応しています。
機能安全モータの特長
機能安全モータは機能安全対応エンコーダを搭載しており、ASM-Xと組み合わせることで、1台のモータでSIL3、PLe(CAT3)を実現します。機能安全対応エンコーダは、内部で位置データを2重化し相互診断を実施するほか電源保護機能や回路診断機能を追加しています。
Σ-Xシリーズ機能安全対応製品は機能安全が求められる装置に最適
今回ご紹介した機能安全対応製品は、欧米市場を中心とした機能安全が求められる用途に最適です。半導体・液晶製造装置、電子部品実装機、工作機械、金属加工機、包装機、産業用ロボット、その他一般産業用機械などにお使いいただけます。
装置の安全関連システム構築にご興味をお持ちの方は、お問い合わせページからぜひお気軽にご相談ください。
※これまでにお取引のあるお客さまは、拡販パートナ(代理店)へお問い合わせください。
サーボパックとアドバンストセーフティモジュール(ASM-X)との組合せや、対応可能な機能安全モータの形式の見方は、製品ページをご確認ください。

解説のポイント
- 機能安全とは、安全機能を組み込んだ製品のこと。機能安全のレベルは、安全度水準のSILと、性能レベルのPLで具体的に定義されている。
- 安川電機のACサーボドライブΣ-Xシリーズの機能安全対応製品は、SIL3、PLe(CAT3)の安全関連システムを実現可能。
- 省配線化や多様な安全機能への対応で、装置側で安全機能を構築する負担も軽減する。