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安川電機独自の新型アーク溶接工法を解説!
厄介なスパッタを99%低減できる理由とは?

2025.08.26

豆大福先生への質問 豆大福先生への質問

アーク溶接にロボットを使用していますが、
スパッタの除去作業に手間がかかっています。
スパッタを低減するための対策はありますか?


豆大福先生

ロボットによるアーク溶接で高品質化・効率化が実現できる一方、溶接の際の「スパッタ(溶融金属の粒)の飛散」は多くの溶接現場において大きな課題となっていますね。除去作業の手間が増えるだけでなく、品質不良や生産設備の不具合による生産効率の低下につながることもあり、対策は必須です。今回は、スパッタ量を最大99%低減する、安川電機独自の新型EAGL工法をご紹介します。デモンストレーション動画もぜひご覧ください!


アーク溶接の課題 – スパッタ飛散による生産効率低下

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アーク溶接は、自動車産業をはじめ、建築、造船など、幅広い分野で欠かせない技術です。近年は、製造の自動化、製品品質の向上、生産コストの削減、そして安全な作業環境の確保といった観点から、アーク溶接現場でのロボット化の需要が高まっています。

ロボットを用いたアーク溶接の高品質化や効率化が進む一方で、大きな課題となっているのが、溶接の際の「スパッタ(溶融金属の粒)の飛散」です。

スパッタがワークやジグに付着すると、除去作業や清掃の手間が増えるだけでなく、溶接ビードの狙いずれや固定不良の原因にもなります。これにより、品質不良や生産効率の低下、さらには製造コストの増加を招くことがあり、各業界共通の課題となっています。

従来の溶接法とEAGL工法、新型EAGL工法の違い

この課題に対し安川電機では、2013年に独自の溶接工法「EAGL工法Enhanced Arc weldinG for Low spatter)」を開発しました。ワイヤがワークに短絡する瞬間に逆送制御を行うことで、スパッタを大幅に低減する革新的な技術です。

従来の溶接法とEAGL工法との違いを見てみましょう。MIG/MAG/CO2短絡溶接法と呼ばれる従来の短絡溶接法では、常に一定の速度で溶接ワイヤを送給します。そのため、ワイヤとワークの短絡状態を解除しアーク状態へ移行させるために大きな電流を流す必要があります。これによりスパッタが多く発生していました。

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EAGL工法では、短絡の瞬間にワイヤを引き戻すことでスパッタの発生を抑制します。溶接波形と同期して、溶接ワイヤを正送・逆送で繰り返し制御する原理です。強制的に短絡状態からアーク状態に移行し、適切な溶接条件に制御することでスパッタを低減します。

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そして、このEAGL工法を進化させたのが「新型EAGL工法」です。業界最高のモーション性能を持つ安川電機のACサーボモータ「∑-Xシリーズ 」と新溶接波形制御を組み合わせることで、従来サーボトーチと比較して溶接時の電圧・電流・ワイヤの送給を更に高速・高精度で制御することが可能になります。従来の短絡溶接法と比べて、スパッタを最大99%低減できます。

また、難易度の高いアルミニウム材(以下、アルミ材)溶接の改良や溶接裕度の向上により、EAGL工法の適用範囲を拡大させています。
∗ワークのばらつきがある程度あっても、高品質な溶接ができる範囲のこと

  1. 短絡する瞬間にワイヤを戻すという、安川電機ならではの高精度なモータ制御技術を生かした溶接工法なんです。

新型EAGL工法の適用事例 – スパッタ量を最大99%低減!

新型EAGL工法の適用事例をご紹介します。

鋼板の溶接

鉄材の溶接は、自動車のフレーム、建築構造物、橋梁、造船部材、パイプラインの設置・修理など、耐久性と安全性が求められる部位に多用されます。新型EAGL工法では、特にスパッタが発生しやすいCO₂溶接においても、スパッタ量を最大99%低減できます。

溶接法の違いによるスパッタ発生量の比較
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また、MAG溶接では、新型EAGL工法の採用によりビード幅や溶け込み量が向上し、高品質なアーク溶接を実現します。

従来EAGL工法と新型EAGL工法でのビード形状の比較
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薄板アルミ材への高速溶接

アルミ材のアーク溶接は、軽量性と耐食性が求められる分野で広く利用されており、特に近年、自動車産業では自動車の軽量化のため、ボディーパーツやフレームへの採用が進んでいます。アルミ材の溶接の重要性は一段と増していますが、溶接難易度が高いことが課題でした。

新型EAGL工法では、薄板アルミ材の高速・安定溶接を実現し、ビードヨレのない高品質な仕上がりが可能に。新型サーボトーチと新溶接波形制御により、板厚1.5mmの薄板アルミ材の高速溶接を実現しています。∗1

さらに、パルス溶接との組合せにより、美観を重視するうろこビードにも対応。スマット∗2の発生も抑え、人手によるTIG溶接∗3と同等以上の品質をロボットで再現できます。

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∗1
溶接条件:電流120A 速度200cm/min
∗2
スマット:溶接ワイヤ先端から離脱した溶滴の一部がアーク熱により蒸発し、シールド外へ飛散し、酸化、凝固することにより生成される黒色または灰黒色の微細な金属酸化物
∗3
TIG溶接:不活性ガスを用い、かつ非消耗式のタングステン電極を用いた火花を飛び散らかさない(スパッタ発生が少ない)ことが特長のアーク溶接工法

【動画で見る】新型EAGL工法デモンストレーション

それでは、新型EAGL工法による極低スパッタ溶接のデモンストレーションを動画で見てみましょう。溶接時のスパッタの少なさや高速溶接にご注目ください!
(2024国際ウエルディングショーより)

新型EAGL工法で、高品質・高効率なアーク溶接を実現

新型EAGL工法は、スパッタ低減による高品質・高効率なアーク溶接ソリューションです。さらに、データ活用により、溶接作業の履歴や溶接条件などを「視える化」することが可能となり、設備保全や品質管理の効率化にも貢献します。

スパッタ対策でお悩みの方、新型EAGL工法や適用製品にご興味をお持ちの方は、お問い合わせページからぜひお気軽にご相談ください!

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解説のポイント

  1. アーク溶接のロボット化が進む一方、スパッタ飛散による除去作業の増加や品質低下が課題となっている。
  2. 安川電機では、ワイヤの送給を高精度に制御することでスパッタ量を最大99%低減する、独自の新型EAGL工法を開発。
  3. 鉄溶接のほか、溶接難易度の高い薄板アルミ材の高速・安定溶接にも対応。高品質な溶接を実現している。

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