
自動車業界は100年に一度の変革期に入ったといわれ、「CASE」に対応するため、製造工程の低コスト化・高生産性が重要な課題となっていますね。一方でカーボンニュートラルの観点から省エネ化への対応も不可欠です。特に自動車製造の「内板塗装」は、作業や塗装ブースの特徴上、ロボットによる自動化や省エネ化が難しかった工程です。今回は、従来型の長大な塗装ブースを大幅に縮小し、完全自動化による生産性向上と消費エネルギーの削減を実現する、新たなロボットシステムをご紹介します。
CASE対応・カーボンニュートラル対応を求められる自動車業界。省エネ化のカギを握るのは“塗装ブース”
100年に一度の変革期に入ったといわれる自動車業界。「CASE(ケース)」とは、自動車産業の新たな領域を意味するConnected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(シェアリング)、Electric(電気)の頭文字を取った造語です。CASE対応のため、「ハードウェアからソフトウェアへ」が主流となり、製造工程では低コスト化・高生産性が重要な課題となっています。
一方、企業にもカーボンニュートラルの実現に向けた取組みが求められ、省エネ化の対応も不可欠です。
自動車製造には、プレス、溶接、塗装、組立てなど多くの工程がありますが、この中で最も消費エネルギーが多いのが塗装工程です。さらにエネルギーの約80%を、塗装ブースの空調・乾燥のために使用しています。塗装ブースの消費エネルギーはブース面積に比例することから、塗装ブースの縮小化や使用時間の短縮が省エネ化のカギを握っているといえます。
塗装ブースの縮小化は必須だが、内板塗装工程には多くの課題が
自動車の塗装工程には外板塗装と内板塗装があります。内板塗装はエンジンルーム、トランクルーム、ドアの内側などを塗装する工程です。自動車ボディーの狭い開口部やロボット間のアームの干渉などを回避しながら作業をする必要があり、外板塗装に比べてロボットによる自動化が難しい工程でした。
そのため、従来の内板塗装は、フロア部にロボットの走行台車を設置し、コンベヤに追従しながら塗装をするシステムが一般的でしたが、ブースが長大化し大量のエネルギーを消費してしまうことが課題となっています。
●内板塗装工程における課題
- ボディーとロボットの干渉を回避し、コンベヤに追従するため、長い走行装置が必要。ブース面積が大きくなり、多くのエネルギーを消費する。
- 密集設置したロボット間、ボディーとの干渉が多く、ロボットのポテンシャルを十分に発揮できない。
- スライドドア車種が混在するラインでは、ドア開閉ロボットの構成が複雑化したり、干渉が大きくなったりし、塗装に時間がかかる。
完全走行装置レス内板塗装システムにより、塗装ブースを最大50%縮小し、完全自動化
内板塗装工程の課題に対し、走行装置をなくし、ブースを最大限にコンパクトにするロボットシステムをご紹介します。
この完全走行装置レス内板塗装システムは、最小限の塗装ロボット4台を壁掛け設置し、ドアオープナーロボットと上下に配置します。ロボット間の干渉がなく、作業効率向上と塗装時間の短縮を実現できます。また、スライドドアの車種が混在する塗装ラインでも完全な自動化が可能です。
このシステムにより、最大50%ものブース縮小効果を得られます。空調によるCO2排出、イニシャルコスト、ランニングコストを削減できます。
完全走行装置レス内板塗装システムを構成する、3つのロボット製品
完全走行装置レス内板塗装システムを構成する各製品の特長をご紹介します。
●塗装ロボットMOTOMAN-MPX3500(可搬質量15kg、最大リーチ2700mm)
- 自動車塗装ラインに最適な広い動作範囲。走行装置がなくても広範囲を塗装できる
- 全方位取付け可能。壁掛けにすることで、動作範囲を最大限活用し、ボディーやドアオープナーとの干渉を最小化
●ドアオープナーロボットMOTOMAN-MPO10L(可搬質量10kg、最大リーチ2550mm)
- スライドドア専用のドアオープナー
- 当社独自の制御方法により、3リンク構造のアームによるコンベヤ追従が可能
- 走行装置レスでドア開閉を実現
●ドアオープナーロボットMOTOMAN-MPO40(可搬質量40kg、最大リーチ4550mm)
- テールゲート、エンジンフード専用のドアオープナー
- 大きな水平機構、垂直に下ろせるアームにより、塗装ロボットと干渉することなくドア開閉を実現
【動画】スライドドア・テールゲート周りの内板塗装デモンストレーション
実際の塗装作業のデモンストレーションを動画でご紹介します。この動画では、塗装ロボットMOTOMAN-MPX3500とドアオープナーロボットMOTOMAN-MPO40を上方に壁掛け設置し、ドアオープナーロボットMOTOMAN-MPO10Lを下方に設置した、最小ロボット構成を再現しています。
内板塗装工程後半の、スライドドアおよびテールゲート周りの塗装工程を表したものです。(2023国際ロボット展に出展時の映像)
まず、ドアオープナーロボットMOTOMAN-MPO10Lが、特殊なジグを使わずロボットでスライドドアの開閉を行うことで、開閉途中の狭い隙間を狙って塗装できます。ノーマルドアとスライドドアとの混在ラインでも問題なく開閉可能です。
また、従来走行装置の台車に遮られていた空気の流れも改善され、ブースの空調効率を向上でき、エネルギー消費量を削減できます。
上方に設置されたドアオープナーロボットMOTOMAN-MPO40のアームが垂直に下り、塗装ロボットと干渉することなく、テールゲートを開閉します。テールゲートも段階的に開閉することで、隙間を狙って塗装できます。
内板塗装工程の完全自動化により生産性向上と消費エネルギーの削減を実現!
完全走行装置レス内板塗装システムにより、内板塗装工程の完全自動化を実現し、カーボンニュートラルに大きく貢献します。今回ご紹介したシステムや各製品に関するご相談は、お問い合わせページからぜひお気軽にご連絡ください。

解説のポイント
- 自動車業界は100年に1度の変革期に入り、CASE領域への対応に伴い、製造工程の低コスト化・高生産性が求められている。
- 同時にカーボンニュートラルへの対応も不可欠。特に製造工程で最もエネルギーを消費する塗装ブースの縮小や使用時間の短縮がカギとなっている。
- 安川電機では、従来塗装ブースの長大化が課題となっていた内板塗装工程の走行装置をなくし、ブースを大幅に縮小するロボットシステムを開発。完全自動化とエネルギー消費量の削減を実現できる。