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がんゲノム診断って何?
ロボットが貢献する最先端医療(後編)

2020.6.23

豆大福先生への質問豆大福先生への質問

がんゲノム診断について、前編で概要が分かりました。
診断は医療関係者が行うイメージですが、ロボットはどう関わっているんですか?


安川グループのベンチャー「ロボティック・バイオロジー・インスティテュート株式会社」(以下、RBI)は、再現性の高い高精度の分析・実験環境を提供することでライフサイエンスに関わる人々が最大限に創造性を発揮できるよう、汎用ヒト型ロボットLabDroid「まほろ」を開発しました。現在RBIは「まほろ」による高精度自動化を強みとした分析・解析作業の受託事業(ロボットシェアリング)に注力しています。その目玉の一つとしてがんゲノム診断向けの解析前処理に取組んでいます。ロボットの役割を解説しますね。


正確な診断に不可欠な解析前処理

前編で解説したように、RBIは慶應義塾大学病院を中心とした「全遺伝子診断」の取組みに参画し、がん検体を前処理して次世代シーケンサと呼ばれる装置で遺伝子を読み取れるようにする役割を担っています。
ゲノム診断は、次世代シーケンサで約2万ある遺伝子を読み取り、その膨大なデータをスーパーコンピューターで解析、遺伝子変異を特定する事で行われますが、正確なデータを得るためには検体の前処理の精度が重要になります。

約2万種類の遺伝子を解析イメージ

解析の前処理とは具体的には、各種の試薬を使ってがん組織からDNAを抽出、さらにシーケンサで読み取るためにDNAを最適な長さに断片化したり、それぞれの断片にアダプタをつけたりする作業です。この作業はライブラリ調製と呼ばれています。

検体の前処理の一例

安定した解析結果を得るためには、解析前処理の高精度化と自動化が求められます。一方で、前処理作業にはいくつもの工程があることに加え、がん検体は微量であるため、より丁寧な作業が求められるなど、自動化が難しい作業でもありました。 また、今後ますます利用増が見込まれるがんゲノム診断ですが、前処理は熟練を要する作業のため検査技師の育成が追いつかないことも予想され、自動化への期待がさらに高まります。

「まほろ」の特長とは?

RBIではこの作業を「まほろ」を用いて自動化しました。熟練者の作業品質を超えるほどの再現性と安定性を実現し、がんゲノム診断のデータの安定化に一役買っています。

汎用ヒト型ロボットLabDroid「まほろ」

産業用ロボットならではの動作の自由度や高い繰返し精度と、直感的な操作でプロトコル*を作成できるワークフロー編集ソフトウェア「プロトコルメーカー」の組み合わせにより、熟練を要する作業の自動化を実現。プロトコルの詳細はさらに数値で微調整が可能なため、コツや勘に頼らず作業手順を最適化することができます。プロトコルメーカーでプロトコルを作成すればロボットの動作プログラムが生成されるためロボットの専門知識は不要です。
※実験や解析等の細かな作業手順書。料理で言えばレシピに相当。

ロボットの汎用性を生かし常に最新の作業手法を取り入れることができるのも、専用機にはない利点です。RBIは「まほろ」を活用してさらなるシーケンス結果の安定化と配列読み取りエラーゼロを目指し、がんゲノム診断に貢献していきます。

また高い汎用性により、異なる作業への転用も可能です。例えば、通常時はゲノム診断用途で使用しながら、必要時には新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で話題となったPCR検査作業用に転用するような使い方の検討も始まっています。

データ活用は始まっている

自動化によるメリットには再現性の向上や高精度化に加え、作業ログや計測データがすべて自動で記録できるようになることが挙げられます。人の手を介在しないことでヒューマンエラーや改ざんの防止にもなり、医薬業界で求められるデータインテグリティー*の実現にも貢献できます。
※データの改竄や偽装などを防止するために、工程すべてにおいてデータの完全性と正確性が担保されていること。

また、記録された作業データや環境データは、装置の安定稼働や作業精度を保証するためにも活用できます。「まほろ」は当社が提供するデータ蓄積・解析ソフトウェア「YASKAWA Cockpit」を活用して、これらのデータの活用を始めています。

将来的には、分析結果と作業パラメータ、環境パラメータの相関を解析し、作業プロトコルの最適化や、更なる分析・解析精度の向上につなげられるようなバイオメディカル版の
i3-Mechatronicsを実現することも視野に入れています。

将来展望

RBIでは、iPS細胞培養の自動化をはじめとして再生医療分野での事業貢献に向けた準備にも着手しています。再生医療に欠かせないiPS細胞や組織細胞の培養は手間のかかる作業で、再生医療の商業化のためには自動化と品質の安定化が欠かせません。
理化学研究所などで網膜再生医療を手がける髙橋政代氏との共同研究では、「まほろ」はiPS細胞培養にとどまらず、分化誘導*後の組織細胞を培養することや数百日間の無人運転実績もあります。
※万能細胞であるiPS細胞を網膜や心筋といった特定の組織の細胞に変化させること。

今回はがんゲノム診断を例に解説しましたが、「まほろ」の活躍の場、貢献できる分野を当社としてもどんどん見つけてご紹介したいと思います。
安川電機は、これからも自動化技術とRBIの活動を通じ、先進医療分野の発展にも貢献していきます。

解説のポイント

  1. がんゲノム診断で正確なデータを得るためには、検体の前処理の精度が重要
  2. RBIでは検体の前処理作業の一部を「まほろ」を用いて自動化し、がんゲノム診断のデータの安定化に貢献している
  3. 自動化によって、再現性の向上や高精度化だけでなくデータの活用もできる

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